ビジネスシーンや目上の人との会話において、日常的に使う言葉を適切な敬語に言い換えるスキルは、社会人にとって不可欠なビジネスマナーです。特に「知る」という言葉は、「相手のこと」「自分の知っている事柄」「依頼された内容の理解」など、状況に応じて複数の敬語表現が存在するため、混同しやすい表現の代表例といえます。
本稿では、ビジネスで頻繁に登場する「存じる」「存じ上げる」「承知する」の正確な意味と違いを整理し、失礼のない具体的な使い分けや実践的な例文を分かりやすく解説します。
「知る」の謙譲語の基本と敬語体系の整理

日本語の敬語体系において、敬語は大きく「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3つに分類されます。最初に、「知る」という言葉が持つ敬語表現の全体像を正しく把握することが、正しい使い分けへの第一歩となります。
相手の動作に対しては尊敬語である「ご存じ(存じ上げるの尊敬表現ではなく、お知りになる・ご存じになる)」や「お聞きする」を使い、自分の動作としてへりくだって表現する場合には謙譲語を用います。「知る」という言葉の謙譲語を正しく選択することで、ビジネスメールや電話対応の印象が大きく向上します。
「存じる」の意味とビジネスでの正しい使い方
「存じる」は、「思う」「考える」の謙譲語であり、同時に「知る」の謙譲語としても広く使用されます。自分の心の中での状態や、物事を認識していることをへりくだって伝える際に適しています。
主に「〜と存じます」「存じております」という形で用いられ、相手に対する敬意を込めつつ、自分の意見や現状の認識を柔らかく伝えることができます。
【例文】
・「その件につきましては、すでに存じております。」
・「来期の新プロジェクトについて、皆様のご協力が不可欠と存じます。」
「存じ上げる」と「存じる」の決定的な違い
「存じ上げる」は、「存じる」に「上げる」という補助動詞がついたもので、より丁寧な謙譲語表現です。「存じる」が自分の思考や一般的な認識を広く表すのに対し、「存じ上げる」は特定の人物や物事、事柄をはっきりと知っている・心に留めているという対象が明確な場合に使われます。
特に相手の人物や名前、会社名などをよく知っている旨を伝える際に最適です。ただし、「お名前は存じ上げております」のように、対象を立てる文脈で使われます。
「承知する」の意味と実務での活用法
「承知する」は、相手の事情や要望、依頼などを「聞いて知る」「理解する」「引き受ける」という意味を持つ表現です。「知る」の謙譲語としてのニュアンスに加え、相手の指示をしっかりと受け止めたという実務的なニュアンスが強く含まれます。
ビジネスシーンでは「承知いたしました」「承知いたしました、すぐに対応いたします」のように、上司や取引先からの指示・依頼を快諾する返答として不可欠な表現です。
「知る」に関する敬語表現の比較と使い分け一覧
ビジネスシーンで迷いがちな「知る」に関連する敬語表現について、それぞれの意味や対象、適したシチュエーションを以下の比較表にまとめました。
| 言葉 | 敬語の種類 | 主な意味・ニュアンス | 適したシチュエーション・例文 |
|---|---|---|---|
| 存じる | 謙譲語 | 「思う」「知る」の謙譲。自分の認識や意向を伝える。 | 「存じております」「〜と存じます」など、一般的な認知や意見の表明に。 |
| 存じ上げる | 謙譲語(丁寧) | 特定の人物・事柄を「知っている」ことを丁寧に表す。 | 「お名前は存じ上げております」など、人や具体的な事柄に対して。 |
| 承知する | 謙譲語・丁寧語 | 事情や依頼を「聞き入れ、理解し、引き受ける」。 | 「承知いたしました」など、指示や依頼への返答・実務の遂行に。 |
| ご存じ | 尊敬語 | 相手が「知っている」状態を高める表現。 | 「ご存じのとおり」「ご存じですか」など、相手の知識に言及する際に。 |
| お聞きする | 謙譲語 | 自分が情報を「尋ねる」「知る」ための謙譲表現。 | 「詳細をお聞きしたく存じます」など、相手から話を聞く際に。 |
ビジネスシーンにおける誤用に注意すべきポイント
敬語の誤用は、意図せず相手に不快感を与えたり、稚拙な印象を与えたりする原因となります。「知る」の言い換え表現においても、目上の人に対して不適切な表現を使わないよう注意が必要です。
例えば、「承知いたしました」は上司や取引先に対して広く使えますが、より厳密なフォーマルさを求める場合は「かしこまりました」も同様に用いられます。一方で、社外の重要顧客に対して「承知しました」とだけ伝えるのは少しフランクに感じられる場合があるため、必ず「承知いたしました」あるいは「かしこまりました」と丁重に表現することが大切です。
また、「存じ上げる」は物事の名称や人に対して使うのが自然であり、「そのスケジュールについては存じ上げております」よりも「存じております」の方が自然であるなど、細かなニュアンスの違いを押さえておくことが重要です。
【知る謙譲語】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「存じ上げる」と「承知する」は、どちらを目上の人に対して使うべきですか?
A1:対象が「人や事柄を知っていること」であれば「存じ上げる」を使い、相手からの「指示や依頼を理解して引き受けること」であれば「承知する(承知いたしました)」を使います。用途が異なるため、状況に応じて使い分けます。
Q2:「承知いたしました」と「かしこまりました」に違いはありますか?
A2:どちらも相手の指示を理解し引き受ける際の正しい表現ですが、「かしこまりました」の方がより丁寧でかしこまった響きを持ちます。そのため、社外の重要な取引先や目上の人に対しては「かしこまりました」、社内や一般的なビジネスのやり取りでは「承知いたしました」がよく使われます。
Q3:社外の人に対して「お前様のお名前は存じ上げております」と言っても大丈夫ですか?
A3:「お名前は存じ上げております」という表現自体は間違いではありませんが、「お名前は存じ上げております」と直接相手に伝えるよりも、「お名前はかねてより承知いたしております」や「お名前は伺っております」とする方がより自然でスマートな印象になります。
「知る」という日常的な言葉も、謙譲語である「存じる」「存じ上げる」、そして引き受けるニュアンスを含む「承知する」を正しく使い分けることで、ビジネスパーソンとしての品格と信頼感が大きく高まります。
それぞれの言葉が持つ本来の意味やニュアンス、対象をしっかりと理解し、日々のメールや会話の中で実践することで、より円滑でプロフェッショナルなコミュニケーションを築いていきましょう。